その1 変人集合! 徳2号
    2002年3月1日、しばた和氏の事務所を訪ね、マテリアルとリ−ダ−と
ティペットを仕入れた。
   その日の夜、さっそく通販責任者の「変人J」君に持って行った。
   変人は満足そうに販売用と自分用を区分けした後、耳を疑うような一言!
「今日はこいつと風呂に入る」 「え?!」私は彼の手元にあるリ−ダ−を
確認するように見つめながら、「な、何で?」と聞いた。
   
「ス−パ−フロ−ティングリ−ダ−と言うぐらいだから、どのぐらい浮くのか確かめる」
すでにマテリアルの方は、この前しばたさんがトプローN を二人の前で水に付けて
団子状に丸めてコップの中の水に落としても全く沈まなかったし、トプローW も光を当てて
全く違う色に変わるのを確認済みである。
   私は変人の顔をじ−っとのぞき込みながら、恐る恐る質問した。
   「今まで他のどんなものと風呂に入ったの?」
    変人は自慢げに答えた。
   
「ヘア−ズ・イア−ニンフ」 「な、何で?」 私はリアルというよりも”そのもの”である
ウサギの耳から毛を引きちぎりながら作るそのニンフと一緒に風呂で遊ぶ彼の姿を
想像しながら、オカルトの世界に引きずり込まれないようにと祈った。
   変人は、
「風呂の中でニンフのヘア−が水流にもまれてどういう風に揺れ動くのか
見たかった」
「どうだった?」「ベチャ−ッとしてて、ち−っとも分からん。魚しか分かんね−よ。
わっはっは!」
変人がフライを始めたのは、私が連れて行ったのがキッカケである。
   私はあまり意識していないが、たまに私のことを”師匠”と呼ぶ。だが私はこの日、
彼が私を完全に追い越して
”行ってしまった”事を痛感した。
その2 変人集合! 徳2号
   変人Jと同時期にフライを始めた変人S君は、フライタイイングの達人である。
彼の巻いたフライは完璧な物ばかりで、管理釣り場でインストラクタ−をしている
エキスパ−トと呼ばれている人までもが、ボ−ゼンと見とれてしまう程である。
   ある日私は彼が釣り場に持って来たテレストリアルフライが、何時にもまして
リアルなことに注目した。その怪しげな艶と質感はどう見ても本物のように見えた。
   「これ、何見て巻いたの?」 
「家にいたゴキブリ・・・うそうそ!殺してないよ−まさか−」
「・・・!」 私は彼の家にはゴキブリも蚊も少なくなってると確信した。
その3 変人集合! 徳2号
   以前大学教授だった先輩Rも、私との釣行をキッカケにのめり込み先に行ってしまった”
一人である。
   結婚式で新郎の親族として紹介される時でも、「学生に勉強を教えずに釣りばかり
教えている大学教授」などと冷やかされる始末である。
   ある日、近くに寄ったついでに先輩Rのいる大学の部屋を訪ねた。
   その部屋には顔見知りの先輩がもう一人同室していた。部屋の真ん中には大きな
水槽があり、その中で15p程の小さくて綺麗なヤマメが気持ち良さそうに身を
ひるがえしていた。
   「先輩これどうしたの?」「奥多摩で釣ってきた。」「こんなに小さいのかわいそうだよ。」
「大きくなるまで大事に育てて、川に戻すんだ。」
   幸せそうな表情を見ていると、それ以上何も言えなくなった。正論かも知れない。
小さいまますぐに釣られて心ない釣り人に一口で食べられてしまうよりは・・・。なによりも
大好きなヤマメと一緒の空間で時が過ごせると言う贅沢がちょっぴり羨ましかった。
真夏に涼を運んできたヤマメに、同室のもう一人の先輩も嬉しそうだった。
 それから3週間後、ボクシング部のコ−チをしに大学に来た際に、先輩Rではなく、
あのヤマメに会いたくて部屋を訪ねた。
 入ったとたん、部屋が暗く感じた。二人ともいるのだが表情が沈んでいる。
  とっさに水槽に目をやると、あのヤマメはいなかった。「死んじゃったの?」
 「・・・」 
「先輩のことだから涙浮かべながら土掘って埋めて、墓作ったんじゃないの?」  「・・・」
   すると突然もう一人の先輩が、悲痛な表情で私に訴えるように
「それならまだいいよ!
いまだ別れられなくて死んで一週間も経つのに、皿にのせて冷蔵庫の中にまつってるん
だから・・・。一緒に暮らして冷蔵庫利用してる俺の気持ちが分かる?」
   私は「変人じゃないの?!」と冷やかしながら部屋を出た。
   同室の先輩も可哀想だが一番可哀想なのはヤマメである。