その5 師匠との出合い 徳2号
 とっておきの穴場
 私のフライフィッシングの師匠は、山梨県清里にある喫茶店「モスバック」のマスタ−林勝美さんである。
 私は中学1年生の時に初めてヤマメを釣ってから、師匠に出会う25歳までずっとエサ釣りで通してきた。釣れた事よりも釣れなかった事の方が多かった。清里にたびたび行くようになったのは、近くの大門川や西川、梓川、千曲川源流で魚が良く釣れたからである。
 ある日私はとっておきの穴場を見つけて、一人八ヶ岳へと向かった。清里、野辺山を過ぎて更に千曲川を下り海の口を越してしばらく進むと、左から湯川という赤茶に染まった支流が入って来る。その魚の住めない湯川の上流に出合う牛首川と言う支流である。穴場探しが大好きな私は、草津の吾妻川のような魚の住めない川の支流などに興味を持ち良く出掛けた。この牛首川にはそれ以上、かなりの期待があった。わざわざ魚がいるかいないか分からない牛首川に入らなくても、この辺りではいくらでも良い釣りが出来たのだから、場荒れするほど人は入ってないはずだという読みに自信があった。
 下流部はやや険しかったが、やがて浅瀬ばかりの単調な渓相が延々と続く。6月の暑い日でエサ釣りには厳しい条件だったようだ。それでも半日で良型(24p)を頭に3尾のイワナを釣った。引き上げるには少し早かったが、旅の情報誌に清里の喫茶店「モスバック」のマスタ−が、釣り好きと言う事が小さく載っていた事を思い出し、情報招集に寄ってみることにした。
 釣りのベストを着たまま店に入った私に、マスタ−は「釣れましたか?」とすぐにきさくに声を掛けてきた。牛首川で釣りをしたことを言うと少し驚いた様子で、すぐに地図を持ってきて質問責めにあってしまった。情報招集のはずが反対になりそうなので、慌てて大門川をはじめとする近くの川について聞き返した。
 釣れる!フライフィッシング
 数日後また釣りに来てモスバックに寄った時、私は大きな衝撃を受けた。それは私が牛首川へ入ったとマスタ−に伝えた翌日に同じ場所に入って、尺を頭に18尾の良型イワナを上げたのである。私が釣った限りでは牛首川は私の釣果でも上出来と言う印象だった。私よりも長い距離を短時間で詰めての釣果。以前から憧れてはいたが、本気でフライフィッシングを始めようと決意するには充分なキッカケとなった。
 それからは、もっぱら清里通いが続いた。竿を持たずに牛首川、大門川で師匠の釣りを拝見させてもらった。ボサのかぶさる渓で魚から遠く離れてポイントにフライを落とすラインコントロ−ルに感激し、渓流のフライフィッシングのおもしろさを認識した。自分にとってエサ釣りでは主に獲物として映っていたヤマメ、イワナが、フライフィッシングではユ−モラスで可愛いくて神秘的な存在として新鮮に映り変わっていた。
 師匠の釣り姿は、喫茶店で見るのんびりとした雰囲気からは想像も付かないほど、機敏である。釣り仲間同士の情報のやり取りにも駆け引きが入り一筋縄では無いが、私の情報に関しては手放しで歓迎して信用してくれる。私がフライを始めて魚をリリ−スするようになってからは、秘密のフィ−ルドも惜しみなく教えてくれる。
 大好きな釣り三昧の日々を送る師匠を羨ましく思いながら、その何分の1の楽しみにあやかろうとして今年も清里に行くつもりです。