お手柔らかに

執筆者:「徳」

自動車保険の加入条件を読むと、年が若いほど無茶な運転をする可能性が有ると言うことで、保険料が安くないのが通常である。 私はその項目を読むたびに昔の出来事を思い出して、ついうなづいてしまう。

それは私がまだ若かった二十歳の時、釣り場に向かう途中に起こった印象深い出来事(事件)である。 朝マヅメの釣りに間に合うために、一人甲州街道を車でひたすら西へと向かっていた。

深夜の甲州街道は走る車もまばらで、眠気と寂しさを癒すため、青信号をいくつ通過できるかを一人で数えながら走った。

その内、信号待ちで隣に着いた車が盛んにアクセルをふかし始めた。気づいた私が隣に目をやると、シャコタンの白い車に乗ったとっぽいあんちゃんが、ニヤニヤと挑発的な表情でこちらを見ている。
「オイオイ、おまえも暇人か~」
私が彼の挑戦を受けない理由は何もなかった。








信号が青に変わった途端、私の車はス-パ-ダッシュ!
いきなり挑戦に応じてきた私に驚いて出遅れた白いシャコタンは、爆音をたてて追いかけてくる。そして再び信号待ち。 シャコタンは青に変わる直前に平気でフライングしてすっ飛び出た。
「オイオイ、おまえさんは勝つためには手段を選ばねえのか~」

青信号を三つ越えたところでシャコタン君が5メ-トルほど私をリ-ド。遠い前方を見ると次の信号が黄色に変わった。 私はシフトダウンをして思いっきりアクセルを踏み、シャコタンをひとまず追い越して自己満足したあと減速した。

一瞬抜かれたシャコタンはむきになって加速して、赤に変わりそうな交差点に突入していった。 と、その時、右から少し早めに発進して来た軽トラックがシャコタン君と接触しそうになった。

「あぶない!」

ドキッとした私の叫び声とほぼ同時に、思いっきり左にハンドルを切ったシャコタンはスピンしながら歩道に乗り上げ、今度は右にハンドルを切った拍子に高い歩道から右のタイヤが道路側へガクンと落ちてゆっくりとひっくり返った。

私は信号脇に車を止めて慌てて駆け寄った。近くまで行くとさすがに気まずさで歩み寄るスピ-ドが鈍ったが、接触しそうになった軽トラックから下りてきたオッチャン二人は更に気まずそうである。
そしてオッチャン二人は、恐る恐る逆さになったままの白いシャコタンの中をのぞき込んだ。

その途端、心配そうな顔が徐々にほころび、ニヤニヤとし始めたかと思ったら、ゲラゲラと笑い始めた。
私はキョトンとしながら、車の中をのぞいた。逆さになった彼が人なつこそうな表情で照れ笑いしている。 その車内のカ-ステレオからは当時のヒット曲、夏木マリの「お手柔らかに」が軽快に流れていた。

・・・私の負けよ~♪お手柔らかに~♪♪・・・。

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