執筆者:「徳」
片品川水系に沿った宿に60センチと58センチの巨大イワナの剥製が飾られている。
大きく裂けた口と太い胴、その圧倒的な迫力には驚かされるが、それが湖ではなく川で釣った事、そして2尾とも同じ日に釣ったと言う事にも驚かされた。
だが、もっと驚かされたのはその釣り方である。
その日の天気は雨、宿の主人が向かったポイントは大きな滝壺だった。
仕掛けはルアー。そして20センチ級のイワナがすぐに掛かった。
だが、そのイワナを取り込まず、ずーっと泳がし続ける。
ガクンと衝撃が来た後、そのイワナをくわえた巨大イワナとの戦いが始まった。
その日は特別に食気のたつ釣れる日だったそうで、60センチを取り込んだ後、また普通にルアーをくわえた中型イワナに58センチが飛びついて来た。
それも主人の足元まで引いて来た時に追いかけて来たそうだ。
イワナは共食いをする。
それはチラチラと耳に挟んで来たことではあったが、昔はそれを否定する言が書かれた本も有った。
「ただでさえ厳しい自然環境の中で子孫を増やさなければならないイワナが、共食いをするのならばとっくに滅びている」とか、「小イワナを置き針にしておくと翌朝それをくわえた大イワナが掛かっていると言うのは、暗闇でユラユラしている小イワナを他の食べ物と間違えた為」等。
でもこの2尾の巨大イワナがそんな説をコッパミジンにしてくれる。
「俺みたいに大きくなりたかったらうまく逃げ隠れしながらたくましく生き延びてみろ!」そんな厳しい教えが深い淵の底から聞こえてくるようだ。
その時の強烈な感動から、私は渓流で釣りをするたびに1度はストリーマーを引くようになった。
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